【代表インタビュー】自分の給与は自分で決める!?ヤマチクが「自己申告給与制度」を導入したワケ。
※本記事は、ヤマチクの働き方や価値観を知っていただくためのインタビューです。
「自分の給与は、自分で決める。」
2026年1月23日、ヤマチクは熊本県で初めて「自己申告給与制度」を導入しました。
従業員が1年間の貢献内容を自ら定め、その約束に対して「この仕事をするから、いくらの給与がほしい」と自分で提示する。それに対し、会社は“過去の実績への評価”ではなく“未来への投資”としてすり合わせ、契約を結び直します。
ヤマチクはこの制度導入により、年間約1100万円の給与総支給額UPを予定しています。
これは、人事制度の変更であると同時に、働く価値の再定義でもあります。
「働くことは必要悪」ではなく、「社会とつながる尊い営み」。
ものづくりが“やりたい仕事”として成立し続けるために、なぜ今「自己申告給与制度」を導入したのか。代表の山﨑が語ります。
自己申告給与制度とは?
━熊本県初の導入企業ということで、まだまだ自己申告給与制度について知らない人が多いのではないでしょうか?どのような制度ですか?
簡単にいうと、従業員が自分の給与を自分で決めるっていう制度です。まず従業員さんが会社への1年間の貢献内容を決めます。これまでの仕事を、たとえば「今は100%しかできないけど、120%できるようになります」とか、あるいは「もっと新しいやり方でこういうのに挑戦してみたい」とか。そして「会社にこんな貢献をするので、私はいくら欲しいです」って自分が欲しい給与額を申告する。会社はその申告に対して妥当かどうかを従業員と話し合います。
給与の決定に関して大事なポイントは、あくまで「評価」ではなく「投資」であるということ。その従業員の過去の実績ではなく、提示した貢献内容を一生懸命達成してくれる未来に投資する。要は「この人ならきっとやり遂げてくれるだろう」という信頼関係によって、会社は投資判断を行います。
導入しようと思った理由
━それを、なぜヤマチクに導入しようと思ったんでしょうか?
2024年の7月に、先行して導入されている大阪の木村石鹸工業の木村社長を会社にお招きし、自己申告制度に関して全従業員で講義を受けました。その時にみんなで「ヤマチクで本当に導入できるのか?」「導入されたらどうなるのか?」といったディスカッションもしています。
私はその時から、「これは導入したい」と思いました。
「自分で給与を決める」という思想そのものに魅力を感じたからです。
「こんなに頑張っているのにこれだけしか給料もらえない」
「あの人はあんなにもらっているのに自分はこれだけしかもらっていない」
給料を他人に決められている限り、給料に関する不満や愚痴がなくなることは一生ありません。自分で決めた給料なら、その責任は自分が担うことになります。待遇に関する不満や他人と比べて出る愚痴も、生じる余地がありません。
何より「自分の力で稼ぎ、自分の人生を生きている」という実感が沸くと私は思うのです。
導入を決意したもう一つは、今の給与水準をゼロから考え直す必要があったからです。2018年までヤマチクは下請けメーカーでした。そのビジネスモデルを前提とした給与水準が今まで続いていました。恥ずかしながら決して高い給与水準ではありません。 そもそも私が会社のリブランディングに着手した目的は、ヤマチクの仕事をやりがいのある仕事にするためです。「給料を上げること」は私の悲願です。2026年時点で、自社ブランドの売上比率が全体の75%を占めるようになりました。今のビジネスモデルであれば、給与水準の見直しもできると判断しました。もちろん、簡単な決断ではありませんでしたが。
加えて、現在は新規採用の給与水準も大幅に上がっています。熊本県内の最低賃金も2026年1月から1034円、ついに1000円台になりました。TSMCをはじめとした半導体分野の進出拡大も相まって、採用市場は過熱気味です。ヤマチクも従来の給与水準では採用競争力がなくなっていることをここ数年肌で感じていました。
ただ、高校新卒の人たちの給与水準を今の市場に合わせると、これまでヤマチクで5〜10年勤めてる人たちの給与水準があまり変わらない、という「給与の不整合」が起こり始めます。当然既存の従業員からも不満が出てくる。これはまずいなと。
技術があって貢献度が高い人たちは評価されてしかるべきだし、新しく入ってくる人たちの水準も低いままでいいとは思わない。採用競争力を上げるためにも、まずは今ヤマチクで頑張ってくれている人たちの給与水準を上げるべきだと思いました。
社員・経営側の不安はあった?
━導入前、社員さん側の不安はありましたか? 経営側もリスクがありますよね。
当然、従業員さんにも不安や戸惑いがあったと思います。
「なんでこんなことしなければならないのか?」
「自分の給料がいくらが妥当なのかわからない」
そんな言葉をたくさん聞きました。
経営側としても正直、いくら提示されるのか分からないという怖さはありました。給与や社会保険料の大幅な増額に耐えうるのか、本当に肝を冷やしました。
ただ、全社員と面談してみると、全て杞憂に終わりました。従業員からは本当にいろんな貢献提案が出てきました。しかもその多くが、こちらの想像を超えていたんです。
従業員一人ひとりが「会社から何を求められているのか」「自分には何ができるのか」を、きちんと理解している証です。
「この人には、こういう役割を担ってほしいな」と思っていた人たちが、まさにそういう提案をしてくる。面談を通して、「こういうところを課題に感じていたんだね」ということが言語化されていきました。
それまで一方通行だった関係が、少しずつキャッチボールに変わっていった感覚があります。
もちろん自分で自分の給与を決めることは、決して簡単ではなかったと思います。貢献内容に何を書いていいかわからず、白紙で面談へ臨む人もいました。そんな人には時間をかけて一緒に「自分の得意なこと」「どんな仕事をしている時が楽しいか」「やりがいを感じる瞬間は何か」など丁寧に壁打ちをして貢献内容を紡ぎ出していきました。
印象的だったのは、高く申告する人よりも、むしろ低く申告する人の方が多かったことです。遠慮がちというか、自分の貢献を過小評価しているようにも感じました。そういう方は私から金額を上げる提案をしました。
そういう奥ゆかしい人たちは「貢献していない」というより「自分がどれだけ必要とされているか」「どれだけ貢献できているか」を実感できていなかっただけでした。それは会社としての課題です。面談は、そのことを見直すきっかけにもなったと思います。
ここで、実際に制度を体験した社員の声も紹介いたします。
━ 自己申告給与制度について、率直に聞かせてください
「自分と向き合わないと、提案できない制度」(雪野)
木村石鹸の木村社長のお話を聞いていたので、制度自体は以前から知っていました。記事や本も読んでいて、「すごい制度だな」と感じていましたね。
私は普段からランチ会を企画して、社員同士がコミュニケーションを取れる場をつくってきたので、提案内容も「人と関わること」を軸に考えました。
この制度は、自分自身としっかり向き合わないと提案ができません。結果的に、自分を見つめ直す良い機会になりました。
環境も働き方も一人ひとり違う。その違いをお互いに認め合うことが大切だと、改めて感じました。面談を通して「会社に対して自分がどう考えているのか」が明確になり、会社にとっても、すごく良い制度なのかもしれないと思いました。
「仕事への責任が、これまで以上に自分ごとになった」(津留)
自分の給与を自分で決めるのは初めてのことで、正直とても難しかったですし、何より1on1の面談は緊張しました。
貢献内容を考える中で、「今やっている仕事以上に、自分に何ができるだろう」と、かなり考えましたね。
また、普段感じていた小さな課題、たとえば「機械の調整に時間がかかって、加工数量が落ちているな」といったことも、改めて見つめ直すきっかけになりました。
自分の給与を自分で決めることで、これまで以上に仕事に対する責任を持てるようになったと感じています。
制度導入後、組織はどう変わったのか
━今回新たに役職(リーダー)が誕生したと伺いました、その理由を教えてください。
自己申告給与制度を導入する中で、新たに役職も設けました。 これは「肩書きを増やしたかった」からではありません。申告された貢献内容と金額をすり合わせる中で、「この内容を実現するには、権限や役割が必要だ」と判断したケースがあったからです。責任を持って意思決定し、周囲と調整しながら進める。その役割を明確にするために、役職を付けました。結果として、組織の指示系統が整理され、コミュニケーションの質も変わり始めています。
アピールが上手い人が評価される制度ではありません
━これから一緒に働く人へメッセージをお願いします。
自己申告給与制度というと、「自己PRが得意な人が有利なのでは?」と そんなイメージを持たれることもあります。ですが、ヤマチクの自己申告給与制度は、アピールが上手い人が評価される制度ではありません。
大切なのは、どれだけ立派な言葉を並べられるかではなく、自分で決めた約束に、どれだけ真剣に向き合い続けられるか。
1年間で何をするのか。 それは本当に実行できる内容なのか。できなかったとき、その理由をどう受け止めるのか。すべて、自分自身との約束です。 他人のせいにすることも、環境のせいにすることもできません。
でもその分、仕事への向き合い方が、確実に「自分ごと」になります。
「働くことはつらいもの」
「生活のために仕方なくやるもの」
そんな「働くことを必要悪」とする考え方が、いつの間にか当たり前になっているように感じます。けれど本来、働くことは、社会とつながり、自分の価値を発揮する尊い営みです。
誰かの役に立ち、その結果として自分自身も成長していく。その実感があってこそ、仕事は“やりたいもの”になっていくのだと思います。
ヤマチクが自己申告給与制度を導入したのは、「働くこと=必要悪」という価値観から、一歩先へ進みたかったからです。