【コラボレーション】名もなき人を透明にしないために考える、わたしたちのあたりまえ(博報堂ケトル:日野昌暢さん、伊集院隆仁さん)
「アイディアを沸かせて、世の中を沸騰させたい」という想いの下、従来の広告の在り方に囚われずコミュニケーションを発想するクリエイティブエージェンシー・博報堂ケトル。新オフィスのお披露目会にてご来場者にお渡しするお箸の製作をご依頼いただきました。今回は、以前ヤマチクを取り上げてくださった九州の魅力を発信するメディア「クオリティーズ」の編集長であり・博報堂ケトルチーフプロデューサーの日野昌暢さん、クオリティーズ編集デスク・博報堂ケトルプロデューサーの伊集院隆仁さんにヤマチクとのコラボレーションについて、お話をお聞きしました。
「何がSDGsだよ」ヤマチクとの出会い
日野さん:ヤマチクとの出会いのきっかけは、クオリティーズの初期に取材したヤマチクのクリエイティブディレクターでBRIDGE KUMAMOTO代表の佐藤かつあきさんが山崎さんのSNS投稿をシェアされているのが目に入って、「良いことやっているな」と思って。
その時に山崎さんが「何がSDGsだよ!」と語っている2022年のICC(Industry Co-Creation ® サミットの略称)でのプレゼン動画を拝見して、素材そのものが環境に優しくとも、生産に関わる人たちの営みがサステナブルではない産業構造を批判する姿が激アツだなと思いました。本当にそうだよなと思って。社会にはそんなグリーンウォッシュと言われるようなことが蔓延していると思うんですよね。
山崎さんの話はすごく現場感がありました。日本製のお箸は「価格の安い中国産のお箸で十分だからなくなっても大丈夫」だと思われているけれど、産業構造にまで目を向けると、国内で竹を切り出すところから作るお箸がなくなっていくから山が荒れたり、人が自然に向き合わなくなったり、今のコンセプトでもある「あたりまえにありがとう」という心がなくなっていくんですよね。山崎さんのお話を聞く前から僕も同じように思っていたのでクオリティーズで取材させてもらうことになったんです。
どんな小さなものでも名もなき人たちが支えている
伊集院さん:いいものを語るとき、プロダクトとしての質やスター的な職人に僕ら取材側はスポットライトを当てがちで、読者もそこに注目するんですよね。
でも、実際に取材をしてみると、ものが作られるときにはたくさんの名もなきプレイヤーの存在がある。そのことを僕たちは忘れてしまっていたなと、ヤマチクへの取材からすごく感じました。
ヤマチクのお箸や山崎さんの視点には、名もなき作り手への温かさがあって、それを堂々と発信している。
取材の中で僕の理解がまだ十分でないとき、「ヤマチクのお箸は100円ショップ的なものとは違いますよね?」と問いかけたんですが、山崎さんは「いやいや、100円ショップのものにも作り手がいるんだ」と話していて、まさにその通りだなと。
僕の意図としては、100円ショップで売られている信じられないくらい安価で便利なものをそのまま受け入れるライフスタイルって良くないよね、改めなきゃいけないよねという個人的な思いもありつつ質問したんです。でも、無意識に「もの」に対する侮蔑的なニュアンスを含んだ発言になっていたんじゃないかなと反省させられました。
そんな風にあらゆるものが持つ背景へ敬意を払う一方で、より手をかけて作られたものについては、 ふさわしい価値をつけていこうとしている。地域の作り手たちが幸せになるために、これくらいの価値が適正だよねという、そこにあくまで人や仲間の姿があるからこそ適正な価値付けをしていて。そこにめちゃくちゃ愛があることが印象的でした。
日野さん:「どんな小さな仕事でも、誰かの仕事である」という話は、取材で全部聞き終わった後に、これだけは伝わってほしいことは何かありますか?と聞いたときに出てきたんですよね。
今回ヤマチクのビジョン『すべての「あたりまえ」を、「ありがとう」に』が公開されたときに、クオリティーズの最後にも話していたなと思い、すごくいいビジョンだなと改めて感じましたね。
僕が取材をしていて印象的だったのは、工場を見て回っているときに、山崎さんが従業員の方々、一人一人のちょっとしたエピソードを話してくれたことですね。そういう時って作業工程の説明を受けることがほとんどですが、「あの方はお姉さんもヤマチクで働いていて」みたいな。作っている人の一人一人を大事に思っていることが伝わってきました。
「いいもの」だからこそ、渡したい
日野さん:博報堂ケトルの新オフィスは、東京・赤坂という料亭の町にあり、元料亭の物件をその面影を残してリノベーションしました。そのお披露目会を行うちょっと前にヤマチクを取材していたこともあり、手土産としてヤマチクのお箸を渡すのがいいんじゃないかなと思ったんです。元料亭をオフィスにというコンセプトにも合う、といったシンプルな理由でした。
手土産はいいものであることがすごく大事です。最終的に1000膳ぐらいの発注になったんですが、それぐらいの数量で”いいもの”となるとそれなりのコストもかかります。ヤマチクのお箸ならいいもので、かつ予算内にハマるなと思って決めました。
伊集院さん:高校時代、アメリカへ短期留学に行った際に手土産でお箸を持って行ったんですが、めっちゃ喜ばれて。機能的にも文化的にも日本の方だけでなく、海外の方もお箸をもらって喜ばない人はいないと思います。そして、ヤマチクのお箸はそこにちゃんと物語がある。
その物語を知ってそのものを大事にしたいと思えたり、物語を伝えられた後、興味を持ってヤマチクのウェブサイトを見に行くと、商品だけでなく添えられた短いメッセージからもものの良さが伝わってきます。noteや過去の取材記事ではより深い話が書かれていて、さらに贈りがいを感じますね。
キラキラではない、体温のあるものづくり
日野さん:コラボレーションの過程で感じたのは、やっぱり生産キャパシティに体温があることですかね。
僕らのクライアントは大企業が多いのでノベルティも大量に作るため、コスト調整が必要で生産力と価格競争力のある中国で作ることが多いんです。
一方でヤマチクはそうではない。僕は取材で作っている人たちの姿を見たので、確かにあの作り方で毎日何本作れるんだろうと考えたら、そりゃポコポコとできるものではなく限りがあるよなと想像がつくんですよね。そこが人肌感があっていいなと思いました。
伊集院さん:初めて工場を訪れたとき、言葉を選ばずにいうと、そこには現場の地味さがありました。例えば僕の場合、最初にヤマチクのことを知ったのは青山にある鳥羽周作さんのレストランなんです。鳥羽さんが興奮して「ヤマチクのお箸良いんだよ」とお話しされてて、ウェブサイトを見ると、すごく素敵なサイトで。 素晴らしいな、どんなお箸なんだろう、どんなところで作っているんだろうと現場を見に行くわけです。
すると現場では、お母さんたちをはじめとした多くの女性たちが地道にお箸を作っている。わかりやすい仕事とか、光を浴びやすいものに人は注目するし、僕らもそうした人やコトを対象に取材をしがちだけれども、世の中ってほとんどのことがそうじゃない仕事に支えられている。
そこをちゃんと山崎さんは発信しているし、お箸に適切な価格をつけることでヤマチクの存在をしっかりと地に足がついた状態で広げている。その事実が名もなき作り手たちのモチベーションを上げている。
そういったつながりを使い手ももっと実感できるといいなと思いました。知ると実感するんですよね。こういう人たちが作っているから大切にしようと思いますし。現場でお箸を作っている社員さんに、毎日の仕事が小さな幸せにちゃんとつながってますよっていうことを伝えたいなとコラボレーションを通じて思いました。
私たちは「あたりまえ」を見直す転換点にいる
日野さん:今まで日本経済が苦しい中で、みんな生き残るためにコストカットや効率化をずっと進めてきたけれどもうその限界が来ています。今までのやり方の連続性の上には、みんなの幸せはもうないと思った方がいいんじゃないかなと。
もうちょっと人と人とが関わり合って次の時代を作っていこうぜっていうことが大きな企業にも求められる中で、効率化で削ぎ落としてきたものの中に、本当は削ぎ落とさない方が良かったものがあるはずで。
ちょっと儲けは減るかもしれないけど、こっちの方がいい国になるよねとか、いい地域になるよねとか、いい商売になるよねとか、その揺り戻しを大きい資本の人たちが向き合わなければならない転換点にあると思っています。
小さいプレーヤーは、大きなお金を持って効率的に大きなものを動かしている人には経済上では勝てないけど、でも幸せそうにしてるのはどっちかなっていうと、やっぱり小さいところでギリギリでやってる人たちが僕には幸せそうに見えます。そこの結節を作るのが、広告会社の社員として大きなプレイヤー側を知っていて、小さき名もなきプレイヤーの方々にも触れる機会がある僕の役割なのかなと思います。
伊集院さん:見つめ直したいのは、誰かの犠牲に成り立っている社会構造やいろんな”ガチャ”で決められてしまう生き方、強い人の都合のいい話が通りがちなこと。僕らの仕事で言うとグリーンウォッシュのような、企業にとって都合のいい話ですね。そこだけ切り取ると、めちゃくちゃいいことをしてるけれども、実態はそうじゃない場合…。
本来、クライアントの希望が「そこ」にあれば従わざるを得ない立場なんですが、そういうときに「もしかしたらそれは御社にとってもよくないことではないですか?」と、めんどくさいことを言い続ける人間であることなのかなと。
当たり前を見直すのであれば、まずは前提を疑って、おかしいと思ったときにちゃんとその中におかしいと言う人が必要です。今、世の中もそれはおかしいと言ったときに、良くも悪くもみんながわあわあ言い始めています。そんな中で、僕らみたいな人間ができることだってあるだろうし、そういうことをもっとやっていきたいですね。
博報堂ケトルさんが運営するクオリティーズはこちらからご覧いただけます。
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